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鞭打たれた犬たちのうめき

 

 

       

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 ベスは、ビルの中庭で一人の女がゆっくりとむごたらしく刺し殺されるのを見た。悲鳴をあげたかったが、喉は凍りついていた。そして中庭の遥か上空の、2つの巨大な目に気づく。あれは顔なのか・・・・・・圧倒的に邪悪な何者かが、下方の花壇で起こっている出来事に立ち会うためだけに召喚されていた。

 あくる日、ベスは同じビルの住人でこの惨劇を目撃したレイと懇意になる。3回目のデートで、2人は初めて喧嘩をした。その夜、彼女の裸体の上でレイは、自分を期待するべきものがない人間に育て上げたニューヨークという街を罵る。その顔には、愛するものの死を告げられた男のような表情がうかんでいた。

 レイと疎遠になったベスは仕事に打ち込む。仕事終わりに寄ったコーヒーショップで店員から理不尽な目にあわされた彼女は、今までに使ったことのない汚い言葉をつかってしまう。都市は、彼女のうちにひびく序曲に呼応したーー

 数日後、帰宅した彼女は黒人の強盗と出くわす。2人は揉み合い、バルコニーに転落する。手摺り越しにこちらを見つめるビルの人達が見える。そして上空には、あの目があった。 ベスの内に、レイの言葉が蘇る。

 『なにかの力にすがらないかぎり、この街に住み、生き残ることはできないんだ・・・・・・こんな状態で生きていけるものか、気の狂ったネズミの群れみたいに、神にみはなされた何かが生まれてこないかぎり・・・・・・ここで生きていくには、何か途方もない・・・・・・』

 レイは上空の神に「強盗を殺して下さい」とお願いする。黒人の肉体が空中に浮かび、惨殺される。そして彼女はこの街の住人になった。